- Vol.1 鞍型屋根の家
(インドネシア) - Vol.2 雪の家、イグルー
(カナダ北部) - Vol.3 とんがり屋根の石の家
(南イタリア) - Vol.4 風(fēng)の塔の家
(イラン中部) - Vol.5 土の中の家、ヤオトン
(中國) - Vol.6 移動(dòng)できる家、ゲル
(モンゴル) - Vol.7 洞窟の家、カッパドキア
(トルコ) - Vol.8 床暖房と板の間のある家
(韓國) - Vol.9 ピグミーの森の家
(コンゴ) - Vol.10 海に浮かぶ家
(フィリピン) - Vol.11 世界最古の摩天樓都市
(イエメン) - Vol.12 小さくて暖かい木の家
(ルーマニア) - Vol.13 中庭のある家
(アルジェリア?インベルベル)
Vol.5 土の中の家、ヤオトン(中國)
中國?黃土高原の気候?特徴
黃土高原は、中國北部を流れる黃河の上流から中流にかけて広がる高原です。黃土高原は、その名前が表すように黃土におおわれています。黃土は砂よりも小さい土のつぶ。中國の北西部にある砂漠地帯から風(fēng)に乗って運(yùn)ばれてきます。高原に降り積もった黃土は、長い年月をかけて分厚い地層をつくります。その地層の厚さは何十メートルにもなり、200メートルを超えるところもあります。
この地域は大陸性気候とモンスーン気候の両方の気候が影響し合っている地域。年間の降水量は少なく、雨はおもに夏にまとまって降ります。また、夏と冬の気溫差や晝と夜の気溫差が大きいのも特徴です。夏は日中35℃をこす暑さで、冬は氷點(diǎn)下まで気溫が下がります。
雨があまり降らず、寒さと暑さの差が大きい黃土高原は、家の材料になる樹木が育ちにくい土地です。そのため黃土高原に住む人々は、木材などの建築材料をできるかぎり使わない、土の中の家「ヤオトン」をつくりました。
土の中の家?ヤオトンの特徴
ヤオトンは、地形に応じていくつかの形があります。崖のあるところでは、自然の崖地に橫穴をほった構(gòu)造で、「靠崖(カオヤー)式」といいます。「カオヤー」とは、「崖(がけ)にもたれかかる」という意味です。崖地も何もない平らな臺(tái)地が広がる地域によく見られるのが「下沈(シャーチェン)式」。地面をほってつくられる地下住居です。
「下沈式」ヤオトンは、まず平らな地面に1辺が約10メートル、深さ6メートルほどの四角いたて穴をほります。地下の4つの面は、かならず東西南北に面するようになっています。この四角いたて穴が、家の中庭です。中庭の外側(cè)に、地上と地下をつなぐスロープや階段を設(shè)けます。四角いたて穴の四つの面に橫穴をほって部屋をつくり、家の完成です。
橫穴は、日當(dāng)たりのよい北の面が年長者の部屋で、東西の面に長男、次男夫婦の部屋や臺(tái)所、日當(dāng)たりの悪い南の面には家畜小屋やトイレがわり當(dāng)てられます。年齢や方位によって部屋がわり當(dāng)てられるのは、年長者をうやまう儒教の考え方に影響を受けていると考えられます。
東と西の地域でちがいのある下沈式ヤオトン
黃土高原では、西部と比べて東部の方が溫暖で雨が多く降ります。東部では雨を防ぐために、4面の壁には焼成レンガ(焼いてつくるレンガ)を貼り付け、四角いたて穴の上部の4辺に雨よけの瓦でできたひさしをもうけています。この中庭は、そこに立って空を見上げたとき「天」を「井」の形に切り取るように見えることから、「天井院(ティエンチン)」と呼ばれています。これに対して西部では、雨よけの瓦でできたひさしはなく、壁面は麥わらを混ぜた黃土でぬり上げているだけです。
東部と西部のちがいは、部屋となる橫穴の形にも表れています。東部は入口部分がせまくなり、その奧に長方形の部屋が続きます。部屋の斷面は半円か末広のアーチ型で、かまぼこのような形をしています。一方、西部の部屋は同じアーチ型の斷面でも、上部がとがった形をしています。西部では橫穴をほりぬいた後、ほり出した土を利用して日ぼしレンガ(太陽の光や熱で粘土をかわかしてつくるレンガ)をつくります。これを積んで前面の壁とするので、東部とちがって入口部分はせまくありません。
土の中の家で、生活に必要な光はどのようにとり入れているのでしょうか。入口がせまく、奧に入るにしたがって空間が広くなる東部では、入口扉とその上にある半円形の格子窓だけでは暗いので、少しでも明るくするために壁をしっくい(消石灰を主成分とするぬり壁材)で白くぬる工夫をしています。一方、西部では下の寫真でも分かるように、光を取り入れる場所(開口)は3カ所あります。先の尖った大きなアーチの中に、入口扉とその橫に約60センチ角の窓、それからアーチ先端にある小さな五角形の煙抜きです。臺(tái)所や洗面所などを入口付近に設(shè)け、部屋の奧の暗い場所は物置にするなど、自然の光を最大限に生かした室內(nèi)レイアウトは、東部?西部共通です。
東部は家族が増えると、別の場所に新しい中庭をつくり、そこに部屋を設(shè)けます。しかし、西部では橫穴の數(shù)が足りなくなると壁面をさらに深く削り、中庭を広げ(壁の辺の長さを長くして)新しい橫穴(部屋)をほります。
東のヤオトンの壁は焼いて作ったレンガを貼り、上部に雨よけのひさしが設(shè)けられる(中國?河南省洛陽)
西のヤオトンの壁は日干しレンガを積んだ、土の感じが殘る柔らかい印象(中國?陝西省乾県)
地中に住むことがもたらす「冬暖夏涼」(トン?ヌァン?シャ?リャン)
ヤオトンの長所は「冬暖夏涼(トン?ヌァン?シャ?リャン)」と表現(xiàn)されます。冬は寒く、夏は暑い黃土高原ですが、ヤオトンの中だと冬は暖かく、夏は涼しいのです。その秘密は地上と地中の溫度の違い。地中の溫度は一般的に、地下6メートルで一定になります。つまり、井戸水と同じで1年を通してあまり溫度が変化しません。また、地面の熱さや冷たさが地中に伝わるまでに時(shí)間がかかるため、暑い夏に最低14℃、寒い冬に最高16℃と、夏よりも冬の方が地中の溫度が少し高くなります。このような地中の溫度の特徴を上手に利用して、人が快適に過ごせるようつくられた家がヤオトンなのです。
POINT
- 建築の材料をほとんど使わずに家ができるなんて、すごく環(huán)境にいいことだよね。
- ほった後の土もレンガに利用できるんだ。
- 土の中に家をつくるのは、地中の溫度の特徴を上手く利用し、冬の寒さや夏の暑さを防ぎ、快適にすごすためなのね。
參考文獻(xiàn):八代克彥「窰洞, 下沈式と靠崖式― 黃土高原、中國」布野修司編『世界住居誌』昭和堂、2005年、54-55頁