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連載:みんなの未來マップ
2025.9.29
嶋村さんのロングインタビューはこちら
遊び=子どもが「生きる」を取り戻す時間。遊びが減る時代に考える、子どもの幸せ
詳細を見る一般社団法人TOKYO PLAY(トウキョウプレイ)の代表理事を務め、子どもの遊びに関するさまざまな取り組みを行う嶋村仁志さん。イギリスの大學で遊びに関する「プレイワーク」を學んだ後、國內外で多彩な「遊びの場」を手がけ、子どもと関わってきました。ビジョンに掲げるのは「Play Friendly Tokyo~子どもの遊びにやさしい東京を~」。自治體や企業と協力しながら、インクルーシブな公園整備なども推進しています。
少子化が進み、子育てのありようも変化しつつある今を、どう見つめているのでしょうか。この先の未來、社會で子どもたちをどう育てていくべきか聞きました。
少子高齢化が加速する現在、子どもを取り巻く環境はどう変化していますか?
國勢調査を振り返ると、1920年には18歳未満の子ども1人に対する大人の數は1.33人しかいませんでした。それが1970年には2.76人、2020年だと5.90人。昔は大人が厳しかったというけれど、そのぶん數が少なかった。厳しい大人から逃れることもできたわけです。
今4倍以上に増えた大人の中で、子どもはなかなか逃げ場がないのではないでしょうか。さらに、2060年には8.00人を超えるだろうといわれています。子どもは、これからの社會の中でどんどんとマイノリティになっていきます。
しかし、良かれと子どもと関わるためのトレーニングを専門的に受けた人だけが、子どもと専門の場所で過ごし、専門のプログラムを行っていたら、社會の大多數の人にとっては、子どものことは他人事になってしまいます。それはまずいのではないのか、と。「子どもたちは皆さんと同じまちに生きていますよ」と見える仕組みを未來の社會の中に織り込んでいかなければならないと思います。
2016年から「とうきょうご近所みちあそびプロジェクト」という、身近な道や公共空間を利用して一時的な交流の場をつくっています。そういう思いがあって、「みちあそび」を提案されているのでしょうか。
はい。これはイギリスのブリストルというまちで子育てをしていたお母さんたちがつくったプロジェクトを元にしています。日々、遠くの公園で子どもを遊ばせ、買い物や夕食づくりに忙殺されていたママたちが、昔は「ごはんよー」と呼べば帰って來られる距離で子どもが遊べる子育てができていたことを思い出し、「イベントはしなくていいから、家の前を歩行者天國にできたらいいよね」と思いついた。そして、月1回、數時間だけ家の前の道路を止めて、子どもは遊び、ご近所の人たちが交流できる場をつくったところ、この取り組みが好評になりました。あっという間にブリストル市內100カ所に広まり、法律の規制緩和も後押しする市民運動として、今ではイギリス全土に広がっているんです。
すごい! 皆さんが求めていることだったんですね。
そこで、私たちも東京の三鷹市で商店街の交差點の一角を封鎖して、「みちあそび」をしてみたんです。交差點に人工芝を敷き、子どもたちがチョークで道路に絵を描けるようにしていました。そして、片付けの時間になって、道路のチョークを子どもたちとデッキブラシで落としていたのですが、それを見た近くのお花屋さんが「子どもたちが道路をお掃除しているなんて、素敵じゃない! うちのお店の水を使いなさい」と提案してくださったんです。
ふだん子どもと関わりのない人も、こうしてまちの中での子どもの姿を見ることで、子どもへの眼差しが変化するきっかけがつくれるのではないかと思います。
寫真提供:TOKYO PLAY
「子どもの聲がうるさい」という苦情が出ることがあると思いますが、知っている子どもの聲はうるさいと感じにくいという調査もあります。「どこどこの誰々が遊んでいるんだな」とわかると、「元気でいいね」と思えるようにもなる。関係がつながっていることで「そのくらい、いいよ」と許容できたり、困っていることはコミュニケーションの中で解決できるようになる。家の中が幸せであると良いのはもちろん、家の一歩外でも子どもと大人が共存できる幸せがあってほしいと思いますね。
イギリスでも東京でも「遊び場」に苦労しているというのは興味深いです。
先日、JICA(國際協力機構)の研修で講師をした時に、世界各地から子ども関係の行政擔當者が集まったのですが、アフリカのマラウイ共和國や中央アジアのタジキスタンの人たちも『今の子どもたちは遊べていない』と話していました。治安などさまざまな理由があると思いますが、子どもが遊べないということは世界共通の悩みなのかもしれません。
また、「子どもが遊べないのは都會だけ」だと思う人もいると思いますが、実は地方の農村部でも子どもは遊べなくなっているといわれています。自然が豊かであっても、「マダニがいるから」「水辺は危ないから」と遊べない。一緒に遊んだり、避けるべき危ないことを教えてくれたりするお兄さんお姉さんもいない。子どもが思いのままに遊べるような「遊びの生態系」は、物理的にも人的にも崩れていると感じます。公園でも子どもの姿は少なく、週末は仕方なくショッピングモールに……というのもよく聞く話です。
地方、そして各國でも……。要因の一つとして夏の酷暑などの溫暖化、気候変動も大きく影響しているように思います。
熱中癥指數のことが毎日話題になりましたが、暑すぎて、外に出て遊んではいけないといわれますよね。このままいくと、この先ずっと、夏は子どもが外で遊べないことが當たり前になってしまう可能性があります。それをなんとかしなきゃいけないとTOKYO PLAYでも話しているところです。公園や學校の校庭に屋根をつくるとか、ミストや木陰ができるように木を植えるとか。日陰に入るだけで熱中癥指數は変わりますから、10年、15年かけて、そうした工夫を社會で実裝することに本気で取り組んでいかないといけないと思います。
遊びの視點を大切にすることで、まちの誰もが過ごしやすくなりますね。
大人も子どもも、年齢も國籍も障がいもジェンダーも関係なく、すべての人が歓迎され、選択肢を持てるようになっていること。それこそがインクルーシブですよね。未來の社會において絶対に必要な視點です。子どもは、消費社會における個別満足度を最大化するよりも、子ども同士や親、近所の人など、関わり合いの中で育つものだと思います。
実際、こども家庭庁では、『はじめの100か月の育ちビジョン』を発表しています。社會全體で子どもを見守って育てるのが大切だという方針を出しています。それを実裝した、関わり合いの生まれるまちづくりが、これからの社會が目指していくべき方向だと思いますね。

一般社団法人TOKYO PLAY代表理事。一般社団法人日本プレイワーク協會代表理事。上智大學外國語學部英語學科卒業、英國リーズ?メトロポリタン大學(現リーズ?ベケット大學)ヘルス&ソーシャルケア學部プレイワーク學科高等教育課程修了。2010年の任意団體TOKYO PLAY設立時より代表に就任。2005~2011年には、IPA(International Play Association?子どもの遊ぶ権利のための國際協會)東アジア副代表も務めた。共著書に『子どもの放課後にかかわる人のQ&A50 子どもの力になるプレイワーク実踐』(學文社)がある。
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