廃棄物から、新たな素材を

「単なるリサイクルではなく、付加価値をつけて生まれ変わらせる。それが僕たちのやりたいことなんです」。

そう言って町田さんが見せてくれた四角や丸型のプレート、中には不思議な形狀の物體もあります。

「これはカカオハスク（カカオ豆の種皮）からつくった建材です。実際に嗅いでみると香りもするんですよ」。

カカオハスクからつくられた新素材を、 建材用途に向けて開発中。

fabulaではさまざまな食品廃棄物をもとに、將來(lái)的に建材や家具などに使える新素材を開発しています。例えば白菜の廃棄物からつくった新素材は、厚さ5mmで30kgの荷重に耐え、材質(zhì)が折れ曲がるまでの強(qiáng)さを表す曲げ強(qiáng)度は、コンクリートの4倍以上にも達(dá)します。

素材を乾燥させ、粉砕し、熱と圧力を加えて成形する──それだけで、さまざまなものに形を変える新素材が出來(lái)上がります。果物の皮やお茶、コーヒーかす、パスタや賞味期限の切れたコンビニ弁當(dāng)まで、ほとんどの食品廃棄物が加工可能です。ただ、その裏には繊細(xì)な「調(diào)合＝レシピ開発」の世界があるのだと言います。

提供：fabula.inc.

「同じ白菜でも、外葉と芯では水分量が全然違いますよね。いつ、どこで採(cǎi)れたか、季節(jié)によっても成分は変わる。だから素材に合わせてレシピを毎回つくっていく必要があります。僕たちは新素材を手がけているため"技術(shù)"に注目されることが多いですが、製造工程自體は非常にシンプル。求められる性能に応じての"レシピ"開発が事業(yè)の要なんです。まさに料理に近い感覚ですね」。

製品に求められる性質(zhì)もさまざまです。強(qiáng)度が求められる構(gòu)造材、軽さが重要な天井材、耐火性が必要な內(nèi)壁材、香りや風(fēng)合いが大切な家具……。選択肢を増やし「適材適所」を考えていく。そのためにも、レシピの精度を上げている段階だと、町田さんは話します。

インフラである「コンクリート」に隠された課題

町田さんが素材に興味を持ったきっかけは、大學(xué)時(shí)代の研究室でした。所屬していた東京大學(xué)の酒井雄也準(zhǔn)教授の研究室では「コンクリートのリサイクルや代替性」をテーマに日々議論が交わされていました。

「『大學(xué)は企業(yè)がやらない研究をしたい』という先生の言葉が心に殘っていて。僕がやるべきことは、まだ解決されていない社會(huì)課題を掘り下げることなんだと、自然に思うようになったんです」。

幼少期をオランダで過ごした町田さん。オランダのインターナショナルスクールでは、地球溫暖化について調(diào)べて発表するなど、「社會(huì)と自分の関わり方」について考える機(jī)會(huì)が當(dāng)たり前にありました。大學(xué)で「社會(huì)基盤學(xué)」を?qū)煿イ贰ⅳ嗓韦瑜Δ俗苑证郡沥紊瞍嘶瞍护毪?quot;実用性"に重きを置いたのも、その延長(zhǎng)だったのかもしれません。

當(dāng)時(shí)、研究室で注目していたのが、コンクリート瓦礫の行き場(chǎng)がないことでした。日本だけでも年間約3000萬(wàn)tのコンクリート廃材が出ますが、再利用先は少ないのが現(xiàn)狀です。道路の下に敷く「路盤材」などに使われることもありますが、1970年代をピークに道路整備の需要は減少傾向にあります。

加えて、そもそもコンクリート自體が抱える構(gòu)造的な課題もありました。コンクリートの材料は水とセメント、砂?砂利です。そのうち、セメントを焼く際に大量のCO₂が排出され、世界で排出されるCO₂の約8％を占めています。

ほかにも、原料となる良質(zhì)な砂?砂利が枯渇しつつあり、輸入に頼る國(guó)も少なくありません。ただの砂ではセメントとして用いることができず、一定の品質(zhì)が要求されることから、砂漠の砂はセメントには不適格。砂漠大國(guó)のサウジアラビアですら輸入に頼っているほどです。それに、川から砂を取りすぎると生態(tài)系にも影響を與えてしまうため、場(chǎng)所によっては規(guī)制をかけている國(guó)もあります。すでに國(guó)連環(huán)境計(jì)畫では「砂の危機(jī)」の警鐘を鳴らしています※2。

こうした中、新興國(guó)での道路や建物の建築ラッシュにより、コンクリートの使用は増加の一途をたどると見込まれています。當(dāng)たり前だと思っていたコンクリートは、近い將來(lái)、奪い合いを招く「戦略資源」になっているのかもしれません。

※2：國(guó)際連合「Sand and Sustainability: 10 Strategic Recommendations to Avert a Crisis」（2022）

「もちろん、コンクリートを全否定したいわけではありませんし、コンクリートなしの生活は現(xiàn)実的に難しいでしょう。実際、耐久性や耐火性などに優(yōu)れた良い素材なんですよ。でも"オーバースペック"な場(chǎng)面では別の選択肢があってもいいはず」。

町田さんの新素材の可能性を模索する試みが始まりました。

循環(huán)する"何か"を探してたどり著いた「ゴミ」

新しい素材をつくるにあたって、町田さんの頭に浮かんだのはこんな疑問でした。

「そもそも、現(xiàn)代で"循環(huán)しているもの"ってなんだろう？」

石炭や石油のように、自然界の資源はいつか盡きてしまいます。では、今すでに大量にあり、しかも常に"出てくるもの"とは何なのか──導(dǎo)き出した答えは「ゴミ」でした。

「新たな天然資源を使うのって、問題を未來(lái)に先送りしているのと同じだと思うんです。コンクリートの砂?砂利のようにいつかは枯渇し、それが問題になる。だったら、すでにあるもの、つまり"廃棄される運(yùn)命のもの"から素材をつくれたほうが、ずっと自然じゃないかと思ったんです」。

まず柑橘類（オレンジ）を原料とした試作に取り組み始めると、2、3カ月という短い期間で鮮やかなオレンジ色の素材が出來(lái)上がりました。その後もさまざまな素材で実験を重ね、大學(xué)卒業(yè)後、この技術(shù)を世の中に発信すると想定以上の反応が寄せられました。

2021年、周囲の反応に背中を押された町田さんは、「ゴミから感動(dòng)をつくる」ため、幼馴染と3人で起業(yè)に踏み切りました。

fabulaという「考え方」の會(huì)社

今では提攜する工場(chǎng)と連攜しながら、サインボードのような建材や店舗用テーブルなどの開発を進(jìn)めています。今後は、大型の家具や建材といった、より多くの廃棄物を活用できるプロダクトへの展開を目指しています。

大型になればその分、利用する廃棄野菜の量も跳ね上がります。ある企業(yè)のオフィスで使用する用途として、カウンターテーブルの天板を複數(shù)枚つくった際には、1t近くの廃棄野菜を使用しました。もしかしたら、廃棄される野菜は捨てられ、燃やされるのではなく、fabulaの手によって、すべて新素材に生まれ変わるようになるのかもしれません。

「まさにそこを目指しています。今までは、ものを生み出しエンドユーザーに屆ける動(dòng)脈産業(yè)ばかりが注目されていました。一方、廃棄物や使用済み製品を処理したり片付けたりする靜脈産業(yè)には光が當(dāng)たりにくかった。さらにいうと、靜脈産業(yè)は動(dòng)脈産業(yè)のようにエンドユーザーに屆ける前提のものづくりがあまりできていません。廃棄物に新しく価値をつけて、使う人のもとにちゃんと屆ける仕組みを構(gòu)築したいんです」。

町田さんはfabulaという會(huì)社のことを「サステナブルや素材の會(huì)社ではなくて、考え方の會(huì)社」と表現(xiàn)します。

「例えば、おせんべいって、酒米を削った殘りでできてることもあるじゃないですか。でも"サステナブルだから買ってる"なんて誰(shuí)も思っていない。ただ、おいしいから買ってる。欲しいから手に取る。それが、本當(dāng)の価値だと思うんです。だから、サステナブルかどうか、新素材かどうかではなく、それが生まれた背景やストーリーこそが価値になっていく」。

そんな思いを込めて、町田さんはラテン語(yǔ)で「物語(yǔ)」を意味するfabulaを社名に據(jù)えました。サステナブルだから選ばれるのではなく、魅力的だから選ばれる。その結(jié)果として社會(huì)や地球にもいい。それを目指すのがfabulaのスタンスです。

「『どんな素材を使うか』ではなく『なぜそれを使うのか』。何に心を動(dòng)かされるのか──。僕らが屆けたいのは、感動(dòng)や気づき、そしてゴミから生まれる次の物語(yǔ)なんです」。

町田さんがつくろうとしているのは、新しい素材ではなく、"未來(lái)の當(dāng)たり前"の風(fēng)景なのかもしれません。