リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへ

これまでヨーロッパにおいても、都市は資源を「採取?生産?廃棄」するリニアな経済※1の中心でした。しかし、サステナブルな都市構(gòu)造へと移行することで、資源が循環(huán)する「サーキュラーエコノミー」の中心地として機(jī)能し始めています。

オランダ政府は2016年10月に「Circular Dutch economy by 2050」という國家プログラムを発表し、2050年までに100％のサーキュラーエコノミー実現(xiàn)を目指すことを宣言しました。

オランダは「資源が価値を失うことなく再生し、持続可能な形で利用され続ける経済システムの構(gòu)築」を基本理念として掲げ、下記の3つを具體的な施策として打ち出しています。

※1：リニアエコノミーは"直線型経済"を意味する。その名の通り、"資源の採掘に始まり、大量生産を経て、最後には大量に廃棄する"という、一方通行的な経済活動のこと。

サーキュラーエコノミーは「社會全體の質(zhì)の向上」のため

オランダ政府にとって、サーキュラーエコノミーの最終的な目標(biāo)は、サステナブルな経済を通じた「社會全體の生活の質(zhì)向上」です。資源の循環(huán)によって経済が回り、働く人々が増え、コミュニティが持続可能に成長することが、オランダの目指すサーキュラーエコノミーのビジョンです。

実際に、オランダのサーキュラーエコノミーに特化したコンサルティング會社Circle Economyが発表した「サーキュラー?ギャップ?レポート（2020年）」によると、オランダ経済における資源循環(huán)率は約24.5％でした。これは、オランダで使用される資源の約4分の1が再利用されていることを示しており、世界平均の約9％を大きく上回っています。

オランダが國としてサーキュラーエコノミーを目指す中、首都?アムステルダム市は、國の志を都市の立場から牽引する位置づけにいます。人口約93萬人（2024年1月時(shí)點(diǎn)）のアムステルダム市は、気候変動や資源枯渇の課題に直面する中で、サステナブルな都市モデルを目指し、サーキュラーエコノミーの構(gòu)築に向けて、全面的にかじを切りました。特に同市が2020年に発表した「Amsterdam Circular 2020-2025 Strategy」では、下記の通り野心的な目標(biāo)を掲げています。

これらの目標(biāo)を支える中核戦略の重點(diǎn)分野には、食品?有機(jī)廃棄物、消費(fèi)財(cái)、建築環(huán)境が掲げられています。

• 1. 食品?有機(jī)廃棄物

  アムステルダム市は食品廃棄物の削減に向け、住民や企業(yè)に対してコンポストの利用を推進(jìn)。飲食店や市場、スーパーマーケットでは「フードシェアリング」アプリの活用によって、賞味期限が近い食材の再配分も進(jìn)められています。また、有機(jī)廃棄物はエネルギーや肥料として再利用され、農(nóng)業(yè)や園蕓分野に活用されています。このようなアプローチにより、都市內(nèi)の食品廃棄物を削減しつつ、地域経済の活性化にも寄與しています。

• 2. 消費(fèi)財(cái)の循環(huán)

  消費(fèi)者に対しては、リユースやリサイクルを奨勵、市內(nèi)にはリペアカフェやシェアリングエコノミーを支える施設(shè)が數(shù)多く設(shè)けられています。例えば「アムステルダム?リペア?カフェ」では、家電製品や家具の修理方法を市民に教えるワークショップが定期的に開催されており、壊れた製品を再利用する意識が育まれています。また、市はファッション業(yè)界と協(xié)力し、リサイクル可能な素材を使った衣料品の普及にも取り組んでいます。

  
  

  

  リペア?カフェはアムステルダムが発祥の地といわれています。寫真はオランダのアイントホーフェンで開催された「ダッチ?デザイン?ウィーク」でのポップアップの様子。市外にも広がっています（photo：西崎こずえ）

• 3. 建築環(huán)境のサーキュラー化

  建築分野では、一次資源の削減が課題となっています。市內(nèi)の新規(guī)プロジェクトでは、建築資材のリサイクルと再利用が義務(wù)化され、都市開発チームは特にバイクスローテルハムやアムステルIII、アイブルグといった新しいエリアで循環(huán)型開発が実踐されています。建築物の循環(huán)型基準(zhǔn)を満たすことを最低條件とし、環(huán)境性能や材料のリサイクル率、フレキシブルな設(shè)計(jì)を評価するポイント制度を?qū)搿Ｑh(huán)性の高い設(shè)計(jì)を持つ事業(yè)者には、優(yōu)先的に次回の入札機(jī)會が與えられる仕組みです。

  こうした基準(zhǔn)を明確にすることで、不動産関連企業(yè)が循環(huán)型の方針に基づいた設(shè)計(jì)?開発を行うインセンティブを高め、エネルギー消費(fèi)やCO₂排出量の削減にもつながっています。

サーキュラーエコノミーを支えるデジタルツール

アムステルダム市は、サーキュラーエコノミーへの移行を推進(jìn)するため、2021年に「サーキュラーエコノミーモニター」を?qū)毪筏蓼筏俊￥长违猊衰咯`は、市內(nèi)の資源使用狀況やリサイクル率を定量的に把握し、資源の流れを可視化するツールです。これにより、どの資源を優(yōu)先的に取り組むべきかが明確になり、政策立案や施策の効果測定に活用されています。

2022年のモニターによれば、アムステルダム市の経済活動における資源使用量は約73.4億kgと推定されており、これは以前の推定値の61倍に相當(dāng)します。また、一次資源の使用量は依然として増加傾向にあり、2030年までに一次資源の使用を50％削減する目標(biāo)達(dá)成には、年間約23億kgの削減が必要とされています。

さらに、資源使用に伴うCO₂排出量（スコープ3）※2は、アムステルダム全體の排出量の80％を占めていると推定されており※3、環(huán)境への影響が従來の予想よりも大きいことが示されています。

このようなデータは、政策立案者や企業(yè)、市民がサーキュラーエコノミーへの移行を加速させるための意思決定に役立っています。モニターの導(dǎo)入により、資源の使用狀況や環(huán)境への影響を定量的に把握できるようになり、効果的な施策の策定と実施が可能となっているのです。

• ※2：事業(yè)者自ら排出している溫室効果ガス（CO₂等）であるスコープ1、スコープ2以外の事業(yè)者の活動に関連する他社の溫室効果ガスの排出量を指します。
• ※3：參照「Implementation Agenda for a Circular Amsterdam 2023-2026」

法的な壁、オランダはどう乗り越えた？

これは日本も同じだと思いますが、サーキュラーエコノミーへの移行を促進(jìn)するための法的課題が存在します。

市民、企業(yè)、政策立案者は、現(xiàn)行の法律や規(guī)制を"変革の障壁"と見なす傾向があります。つまり多くの人は、これらの法律が複雑で専門的な知識を必要とし、サーキュラーエコノミーを支援するための機(jī)會が見過ごされがちだ、と、感じているということです。

こうした課題に対処するため、アムステルダム市やDark Matter Labs ※4などの組織は、既存の法律や規(guī)制の中にあるサーキュラーエコノミーを支援する機(jī)會を特定し、政策立案者がこれらの情報(bào)にアクセスしやすくすることを目指して、情報(bào)提供ツール「CircuLaw」を開発しました。政策立案者が適切な法的手段を選択?適用し、政府間の協(xié)力を促進(jìn)することで、サーキュラーエコノミーへの移行を加速させることを目的としています。

※4：技術(shù)革新と気候崩壊に対応するために必要な"大きなトランジション"に焦點(diǎn)を當(dāng)てている組織。オランダ以外にもイギリスやスウェーデンなど數(shù)カ國に拠點(diǎn)を持つ。

まちなかのサーキュラー開発プロジェクト

國や市をあげての変革を経て、さまざまなサーキュラー開発プロジェクトが生まれています。

• 1.Schoonschip／100％エネルギー自給の水上住宅コミュニティ

  Schoonschip（スホーンスヒップ）は、アムステルダム市北部に浮かぶ「水上サステナブル?コミュニティ」として知られています。47軒の水上住宅が連結(jié)され（2024年11月時(shí)點(diǎn)）、ソーラーパネルによるエネルギー自給、ヒートポンプやグリーンルーフによる溫度調(diào)節(jié)、さらに下水の循環(huán)利用も行われています。エネルギーはコミュニティ內(nèi)でシェアされる仕組みがあり、エコ技術(shù)を駆使した未來の住環(huán)境モデルとして注目されています。

  

  Schoonschip（photo：西崎こずえ）

• 2.Valley／都市に自然を取り戻す「垂直の森」

  Valley（ヴァレー）は、都市の真ん中にありながらも、豊かな自然と共生するランドマーク的な複合ビルです。段丘狀の外観には植物が生い茂り、3,000㎡を超える緑化面積を持つ「垂直の森」として、都市部のヒートアイランド現(xiàn)象を緩和する効果が期待されています。植物には自動灌漑システムが導(dǎo)入されており、建物はエネルギー効率の高い素材で構(gòu)成。內(nèi)部は自然光を最大限に活用するデザインで、人工照明の必要が減らされています。また、雨水の再利用システムも備え、緑化に必要な水資源を自給自足する仕組みも完備しています。Valleyは単なるビルではなく、都市の生態(tài)系に貢獻(xiàn)するサステナブルな建築物なのです。

  

  Valleyの外観（photo：西崎こずえ）

• 3.De Ceuvel／2013年にそのドアを開いた「リジェネラティブな実験場」

  De Ceuve（デ?クーベル）のある一帯は、造船などからなる重工業(yè)地帯でした。しかし2013年、長年の造船業(yè)に加え、金屬加工や塗裝作業(yè)、石油関連施設(shè)など複數(shù)の工業(yè)活動によって土壌が重金屬や石油系炭化水素（PAHs）などで深刻に汚染されていることがわかったのです。

  この土地を再生するため、ファイトレメディエーション（植物による土壌浄化）が採用されました。ほかにも、市內(nèi)に散らばる放置された廃船を再利用して貸しオフィススペースをつくり、ソーラーパネルによるエネルギー自給や水のリサイクルシステムを展開しています。また、アクアポニックス※5を用いた菜園から採れる食材をカフェで提供するなど、アムステルダム市のサーキュラーエコノミーとリジェネラティブな再開発地區(qū)として世界から注目を浴びています。

  ※5：従來の水産養(yǎng)殖と作物の水耕栽培を組み合わせたシステム。魚などの飼育と水耕栽培とで共生環(huán)境を形成することを特徴としています。

  

  De Ceuve（photo：西崎こずえ）

• 4.EDGE Stadium／AI活用で効率最大化、世界一スマートなビル

  EDGE Stadium（エッジ?スタジアム）は、IoTセンサーとAIによるスマート管理でエネルギー効率を徹底的に追求したオフィスビルです。自然光の活用を最大限にするデザインや、従業(yè)員の行動データに基づいた照明や空調(diào)の自動調(diào)整など、ビル內(nèi)のエネルギー消費(fèi)を最小限に抑える仕組みが充実しています。さらに、リサイクル素材を多用した內(nèi)裝や、徹底した廃棄物管理も行われており、サステナブルオフィスのモデルの代表格といえるでしょう。

• 5.Matrix One／分解?再利用可能な研究施設(shè)

  Matrix One（マトリックス?ワン）は、サーキュラーエコノミーを體現(xiàn)する最先端の研究施設(shè)で、特に「デザイン?フォー?ディスアセンブリー（解體設(shè)計(jì)）」が特徴的です。建物の主要構(gòu)造や內(nèi)裝は、將來的に簡単に分解して再利用できるよう設(shè)計(jì)されており、解體時(shí)にも廃棄物を最小限に抑えることができます。さらに、建物全體でリサイクル素材を使用しており、サステナビリティ認(rèn)証のBREEAM※5の「Excellent」も取得しています。また、スマートテクノロジーによってエネルギー効率が最適化されており、照明や空調(diào)システムが使用狀況に応じて自動で調(diào)整されるため、無駄なエネルギー消費(fèi)が抑えられています。研究施設(shè)でありながら、エコで柔軟な設(shè)計(jì)が未來のサステナブルな建築のモデルとして注目を集めています。

  ※5：イギリスのBuilding Research Establishment（BRE）が1990年に開発した、建築物の環(huán)境性能を評価する國際的なグリーンビルディング認(rèn)証制度。

  

  

  Matrix Oneの様子（photo：西崎こずえ）

• 6.Booking.com 本社ビル「Booking.comキャンパス?アムステルダム」

  中央駅近く徒歩すぐに位置するBooking.comの新しい65,000㎡のキャンパスは、BREEAMの「Excellent」認(rèn)証を取得した最先端のスマートビルとして注目されています。オフィス全體に設(shè)置されたセンサーが、実際の利用狀況に基づいて照明や溫度を自動調(diào)整し、エネルギー効率を最大化。屋上には832枚のソーラーパネルがあり、地中熱エネルギー利用システム「WKO」でガスを使わずに暖房と冷房を管理する仕組みも導(dǎo)入されています。

  また、キャンパス內(nèi)には11,000以上の植物や7本の樹木が配置され、自然と共生する空間を提供。タスクや気分に応じて選べるさまざまなスペースを施しており、ハイブリッドワークに最適化されています。地下には2,500臺分の自転車駐車場があり、従業(yè)員がクリーンな通勤手段を選択しやすいよう配慮されています。さらに、地上階の難民支援プログラムからなるレストラン「A Beautiful Mess」には、連日多くの人が足を運(yùn)んでいます。

  

  Booking.com本社ビルの外観（photo：西崎こずえ）

• 7.プラットフォーム「Madaster」によって建築物は「資源を預(yù)ける銀行」になる

  建築の循環(huán)は大きな環(huán)境インパクトをもたらす分野であり、設(shè)計(jì)の段階から不要となる際の再利用や廃棄を考慮することが重要です。オランダのMadaster（マダスター）は、「Building as a Material Bank（資源を預(yù)ける銀行としての建築物）」という考え方のもと、建築物に使用される建材のデータベースを提供し、建材の追跡や再利用を可能にするプラットフォームです。トリオドス銀行の本社ビルやエネルギー會社リアンダーの本社ビルなど、オランダ國內(nèi)外のさまざまな建築物に採用されているこの仕組みは、建築設(shè)計(jì)事務(wù)所RAU Architectsを創(chuàng)業(yè)したトーマス?ラウ氏によって考案されました。

  ラウ氏は、2025年大阪関西萬博のオランダパビリオン設(shè)計(jì)を手がけるほか、オランダのフィリップス社とともに「サービスとしての照明」など循環(huán)型ビジネスモデルを生み出した先駆者としても知られています。このMadasterは、日本でも大手建設(shè)企業(yè)との連攜が進(jìn)行中です。

アムステルダムの課題と今後の展望

アムステルダム市は今後、実験や実踐からわかったナレッジのオープンソースによる効率的なシェア、環(huán)境だけでなく社會的?経済的影響についての指標(biāo)を含めていくこと。自治體の購買力を活用して循環(huán)型のパイロットプロジェクトを拡大していくこと。そしてパイロットプロジェクトから學(xué)んだ教訓(xùn)を形式化するプロセスに十分なリソースをかけていくことを優(yōu)先的に取り組んでいくとしています。

アムステルダム市は、「やったことがないから」を言い訳にせず、EUやオランダ政府からの新しい法整備や規(guī)制導(dǎo)入を待たずしてできることを行い、逆にオランダ政府やEU側(cè)に強(qiáng)力な対策を求めていく予定です。

日本は人口の多い國であり、その規(guī)模を活かして豊かなサーキュラーエコノミーのエコシステムを構(gòu)築する可能性を秘めています。オランダなどの先駆者に學(xué)びつつ、多様な産業(yè)構(gòu)造や文化的背景を踏まえ、日本の都市に適した方法を見つけることが、サーキュラーシティを確立していく近道なのではないでしょうか。