コラム vol.558賃料上昇にともなう賃貸住宅ニーズの変化
公開日:2025/06/30
全國的な地価上昇に加えて、以前のコラムでお伝えしたように、建築費の上昇が続いています。そのため、新築マンション?戸建住宅?一棟売賃貸住宅とも価格が上昇しています。また、その一方で家賃の上昇も顕著となってきました。家賃の上昇に伴い、ご入居者も賃貸住宅選びに関して慎重となってきています。
今回は、賃貸住宅需要の変化の見通しと賃貸住宅に求めるものの変化について考えてみます。
賃貸住宅賃料の上昇とご入居者ニーズ
賃貸住宅の建築コストは、過去10年以上上昇し続けており、とくに2021年以降は大きく上昇しました。この傾向は住宅全般に言えることですが、この先もまだまだ上昇する可能性が高そうです。また、賃貸住宅においても、共有部の設備品のほか、多くの備品においても価格上昇しています。
建築費上昇だけでは、賃貸住宅経営の投資採算性は悪化しますが、賃料の上昇がそれを補う形となり、賃貸住宅投資(=賃貸住宅経営)は、引き続き活況となっています。全國の主要都市では、2022年半ばころからの物価上昇にともない賃料も徐々に上昇しています。賃料には「遅効性」という特徴があり、物件価格上昇からやや遅れる傾向にありますが、それでもここ數年は賃料上昇が顕著となってきました。レジデンス系のJREIT銘柄のIR資料からも、その狀況は顕著となっています。
賃料の上昇は入居者負擔が増えるわけですが、それに伴いご入居者も、「それに見合う暮らしができるか」をしっかりと見極めた賃貸住宅選びとなっています。その流れの中で、「いまや賃貸住宅では當たり前」の設備品があるか、付帯設備があるか、を確認しているようです。
セキュリティの次に當たり前化する付帯設備は?
単獨世帯が増え、賃貸住宅に住む方が増えている現代ですが、10年~15年くらい前、大和ハウスが提供するD-ROOMでは、「セキュリティ賃貸」をうたい、當時の賃貸住宅ではハイレベルなセキュリティ対応賃貸住宅を提供しました。しかしこれも、いまでは「當たり前」の水準となってきました。
「これから必須の賃貸住宅の付帯設備」を考える時には、「昨今の生活スタイルを考えると必須となりつつあるもの」と「分譲マンションでは當たり前のもの」がカギになると思われます。インターネット、宅配ボックスなどは、前者に該當し、セキュリティ関連は後者に該當します。
現在の賃貸住宅需要の中心は単獨世帯やカップル世帯が中心であることを考えれば、25~50m2程度の広さがボリュームゾーンとなります。この広さ?間取りを考えれば、単身者やカップル世帯が生活するうえで必要な付帯整備はすでにあり、室內での今後「當たり前化」すると思われる付帯設備はあまり考えにくいと思われます。
しかし、都市部を中心に賃料の上昇が続いている中で、またマンション建築費が上昇している中で、1戸當たりの面積は狹くなっており、狹くなっているのは収納スペースという狀況となっています。そこで、収納スペースの外出し化も徐々に増えてきました。宅配型のトランクルームを1棟の単位で契約して、そこをご入居者が利用するというようなサービスもあります。入居者が付帯割合に応じて払うタイプや、賃料に含まれているタイプなど、費用の形態は様々ですが、都市部における賃貸住宅で、このような「宅配型トランクルーム」を備えることで、建物スペースを使うことなく、収納スペースを確保することができているようです。
また、「生活スタイル」起因の必須付帯設備として、「分譲マンションで増えつつあるもの」では、エントランスや各扉に適用される「顔認証システム」があります。大和ハウスが提供している賃貸住宅でも今後、提案が増えていくのではないでしょうか。
増える高齢単身者の賃貸住宅暮らしに応えるサービスは?
今後、需要が急増すると思われるのは、未婚高齢単身者の賃貸住宅需要です。生涯未婚率(50歳時點未婚率)が男女とも急上昇しており、2020年には男性約28%、女性約18%(國立社會保障?人口問題研究所データ)となっています。また、都市部での単獨世帯の70~75%は賃貸住宅に暮らしています。
國立社會保障?人口問題研究所が2024年4月に公表した推計「日本の世帯數の將來推計(全國推計)-令和6(2024)年推計-」によれば、2020~2050年の間に65歳以上男性の獨居率は16.4%→26.1%、女性は23.6%→29.3%と大幅増加となります。特に男性の単獨世帯化が大きく進む見通しです。また、2020~50年の間に、高齢単獨世帯に占める未婚者の割合は、男性33.7%→59.7%、女性は11.9%→30.2%となり、近親者のいない高齢単獨世帯が急増することになります。
これらのデータから予想されることは、若いころからずっと賃貸住宅に住んでいた、結婚経験のない方が、高齢者(65歳以上)となり、引き続き賃貸住宅に住む、という方が急増するということです。
こうした方々の求める賃貸住宅を考えれば、設備でいえば、手すり等の高齢者対応ということになります。一方で、ソフト面の拡充は必要であり、緊急時の駆けつけ対応(見守り対応)、近親者のいない場合の入居時の保証人などの対応、建物內でのコミュニティ形成促進、といったことが求められると思われます。
今後の傾向としては、大和ハウスを含め大手ハウスメーカーが提供する賃貸住宅においては、すでに賃貸住宅の付帯設備はかなり整っていると思われますので、「新たな設備が備わる」(=建築費が上昇する)、というよりも、ソフト面のサービスが付加されるという狀況になりそうです。







