子どもの頃、親と連れ立って賑やかな商店街を歩くのが楽しみだった。新しい服がほしいなどの買い物はもちろんだが、もうひとつの目當ては、休憩で立ち寄る喫茶店のパフェだ。色とりどりに飾られたフルーツは、きらきら光る寶石より魅力的なものだった。

JR青森駅から延びる新町商店街。ここ數年また足を運ぶ機會が増えてきたのは、青森市民図書館が駅前にできたり、パサージュ広場でイベントがあったりと、何やら街に新たな動きが出てきたからだ。商店街を歩いてみるとその様子は昔とずいぶん変わっているようだ。新しい店ができるのはうれしいけれど、馴染みの店が無くなっているのはやはり少し寂しい。

そんな新町商店街から海手に折れた場所に、開店當時からのスタイルそのままに営業を続ける珈琲店マロンがある。

珈琲店を開業したのは昭和43年。現マスターのお父さんが美味しい珈琲を提供したいと喫茶店を始め、翌年、大學生だった息子さんのマスターを東京から呼び戻したという。始めた頃は営業時間が10時から23時までだったが、忙しいサラリーマンのためにモーニングサービスをしたいと、朝7時からの営業となった。モーニングは珈琲1杯380円でトーストとゆで卵が付く。マスターのお父さんは今年84歳になるがまだ現役で、お母さんとともに7時から11時までのモーニングサービスを行っている。

マロンのこだわりは、珈琲である。開店當初から変わらず、世界各地の直送された生豆を手焼きし、焙煎している。布ドリップ式で丁寧に入れた特製珈琲は香りよく、腰を落ち著けて大事にいただきたい味だ。また、お晝のサービスセットも當時から根強い人気がある。一番人気の特製ジャマイカンカレーは、マスターの弟さんが調理を擔當している。これといった特別な材料は使っていないというが、ライスにドライカレーをかけたもので、昔から変わらない味を提供し続けているという。

メニューの味やこだわりも変わらないが、店內もほとんどそのままなのだという。「イスひとつとってもお客様の大切な思い出なんですよ。常連さんは大體決まった場所に座るし、イスの破れなんか見つけては『まだあるんだね』なんて喜んだりしています。だから改裝なんてできません」とマスターは笑う。長年店を続けていると、お客様の子ども、孫、というように、代々で利用してくれる常連さんも多いという。

さて、買い物はもっぱら郊外の大型スーパー、足は自家用車、喉が渇けばドリンクコーナーで簡単に済ませる、それだって便利で悪くない。けれど、ある日、ふっと味気ない日常に気づいたら、味のあるマロンのような店に立ち寄って、休憩がてら子どもにパフェでもご馳走してみようか。

rakra2006年12月號掲載

2006年11月頃撮影